たからさがし






 うちの勇者様は不思議なやつだ。人好きのするというか、本人も人懐こいことには違いないが、どこか人を惹きつける才能がある気がする。旅先で出会う人々も、彼の友人であるおてんばな武闘家も、いけすかないあの女賢者も、そして自分も例外なくその一人。
 一体その秘密がなんなのか、はっきりと突き止められたことはまだ一度もない。きっと鷹の目があろうがレミラーマだろうが、見つかることはないんじゃなかろうか。

***

 焚火の番をしながら、ソルトは隣に腰掛けているナッツをちらりと見やる。かろうじて起きてはいるが、まぶたは眠たそうに降りたり上ったりを繰り返している。
 当番でない時は朝まで一度も目覚めずぐっすり眠る性質だけに、慣れない夜更かしは苦手なのだろうとソルトは納得した。

「なぁ、勇者様」

「んー……?」

「眠いんだろ、一人でも番は務まるし先に寝てろよ」

「だめだよ……一人の時に魔物がきたら女子たちを守りながら応戦できないし……僕みたいに、寝ないか……」

 がくんと前に傾いた後、はっとしてナッツが目を見開く。ほぼ寝かけていたせいか、涎が口の端からはみ出している。

「ね、寝ないようにお互い見張るっていう役目があるしさ!あ、別にソルトが居眠りすると思ってるわけじゃなくて」

「わかってるって。ただまぁ……そういう理由じゃないんだな」

 押し黙るソルト。ナッツは不思議そうな顔をしてソルトを覗き込む。
 冗談交じりにからかってやるつもりで、ソルトはずいと身を寄せて耳元に囁いた。

「別に男女じゃないからって、間違いがないとも限らないだろ」

(……これは引くな、全然冗談になってねえ)

 自分で言っておきながら、ソルトは激しく後悔した。これじゃナッツに対してその気があって、脅してるようにしか見えない。
 しかしナッツはきょとんとして、何食わぬ顔で言った。

「ソルトは、僕のこと好きなの?」

「っ!?」

 予想しなかった返事にソルトは驚いて飛び退く。ナッツの表情からは怯えや嫌悪は感じられず、純粋に興味を表している。

(どうする?素直に認めるか、否定するか……いや、しかし……)

「……もしそうだとして、お前はどうなんだ?」

 どっちつかずな返答をする自分の情けなさに、ソルトはナッツの顔を直視できずそっぽを向いたまま。しかしやはりナッツは特に意に介することなく、あくびをしながら問いに答えた。

「んー、僕を好きになってくれるなら、僕も好きだよ」

「……」

 この返事を前向きに捉えていいのか、それとも彼なりの冗談なのかをソルトは一瞬にして頭の中で何度も反芻して考えた。
 あまり冗談だとか気の利いた事を言えるような性格じゃないナッツがこんなことを言うという事は、その気にしてもいいということなのか。少々踏み入ったことを言っても問題ないのか。

「じゃあ……今すぐがいいって言ったら?」

「今すぐ?」

 小首を傾げるナッツ。もう探りを入れるのが面倒になったソルトは、向き直ってナッツの肩を掴み、その場に勢いよく押し倒した。ここまできたら後にはひけない。
 荒い息を整えながら、うまく流れをもっていく最初の一言を探す。

「今すぐここで、お前が欲しいくらい好きだって言ったら、どうする」

(言った……言ってしまった……)

 完全に流れに乗せられる形だが、はっきりと告白してしまった。正直なところ、ソルトはここまでするほど明確にナッツを好いているわけではない。ただこれまでの旅ややりとりの間に、なんとなく同性の友人に抱くのとは違う好意を感じていただけなのだ。過去にものの弾みで一度だけキスを交わしてから、その感情はずっと明瞭になりつつある。
 ナッツは目を瞬かせた後、少しばかり頬を赤らめて目を逸らした。

「ソルトがそうしたいなら……いいよ」

(嘘だろ)

 こんなにあっさりいくものなのかとソルトは目を剥く。

(意味わかって言ってんのか……?いや、わかってなかったら赤くなったりしないよな……)

 逡巡するソルト。ちらりとこちらを見たナッツと目が合う。
 この気持ちが恋心なのか、それとも単に手近な対象でなんとかしたいほどに膨れ上がった欲求不満なのか、もはや区別がつかない。こうやって1対1で向き合っていると、普段の平静さが嘘に思えるくらい調子を崩される。今もまさにそうだ。
 なるようになれ、とやけになりながらソルトはナッツに口付けた。

***

 焚火のはじける音と、遠くで鳴く鳥や虫の声だけが響く。仮眠中の女性陣に聞かれないよう声をひそめながら、服を着たままで見える肌にはすべて口づけを落としていく。ベルトの類は外したが、衣服はあくまで緩めるだけだ。
 ともに旅をする関係である以上、お互い裸ぐらいそれなりに見た事はある。しかしただでさえ野営のさなかにこんなことをしているわけで、服を脱ぐなんて防備を捨てる判断はできなかった。さいわいその日は魔物の気配はなかったが、それでも頭の片隅では戦う備えを忘れてはいない。

「……本当にいいとは思わなかった」

「だって……ほしいって言ったのは、ソルトだよ」

「はは、それもそうか」

 ついばむようなキスを二度交わす。キスの間に下穿きをずらしていき、服の隙間から手を差し込んで脇腹をなぞりながらもう片方の手で双丘を撫でると、ナッツが切なげな声を上げた。

「はぅっ、ん……」

「今はくすぐったいかもしんないけど……そのうちよくなるさ」

(偉そうな事言っといて、俺も初めてなんだけどな)

 孤児だった幼少期から教会で育ち、ダーマで盗賊に転身するまで曲がりなりにも聖職者だった身分なのだ。閨事など、仮に経験があったら破門ものに違いない。……もしも内情が相応に腐敗していたのなら、その限りではないのだろうが。
 内心嘯きつつ、ソルトはナッツに愛撫を続けた。しばらく続けた後、指を滑らせて窄まりに触れてみると、ナッツが少しばかり体を強張らせる。

「大丈夫……怖くはない、落ち着け」

「うん……」

 そっと頭を撫でてナッツの緊張を和らげる。落ち着け、という言葉に自身への暗示も込めながら。
 むやみに傷つけないよう指を湿らせてから、中へ押し込んでいく。絡みつく粘膜は熱く、強く締め付けてくる。ある程度楽に出し入れできるまで何度か抜いてはまた入れ、その都度壁に触れていいところを探す。

「っう、あ」

 黙って耐えている様子だったナッツがふいに声を上げ、その後すぐに自ら口を塞いだ。ソルトも動きを止める。

「悪い……痛かったか?」

「ち……がう、今の、ぞくってした……」

 ナッツの潤んだ瞳に、ソルトはごくりと生唾を飲む。忘れないうちに、と夢中になって何度も同じところを集中的に攻めた。

「ひゃ、あっ……待って、っん……!」

 待って、と制止を訴えるナッツの言葉にも、確かな嬌声が混じる。服を汚さぬよう、ソルトはナッツの陽根、“かぶと”の先へ手を添えた。

「あ、あぁっ……!」

 袖口をぎゅっと掴み、震えながらナッツが声を上げた。しばらくソルトにしがみついて身を震わせると、ぐったりした様子で地面に身を投げ出し荒く息を吐く。

「はぁ……はぁ……あっ、の……ごめん、僕……」

「謝る必要なんかねえよ。……お前も男ってこったな」

 手で受け止めた精液を見せながらにやつくソルトを見て、ナッツがさっと顔を腕で覆い隠す。腕をどけようとすると、泣きそうな声が隙間から漏れた。

「いやだっ……ソルトの意地悪…!」

「悪かったって、そうすぐに泣くなよ。まだまだ今以上にたくさんしてやるんだから」

「……!」

 絶句するナッツの腕を掴んで地面に押し付け、押し開いた足の間に胴体を挟んで腰を抱く。少しばかり宙に浮かせると、落ち着かないのかナッツの呼吸が早まった。その気になればナッツはいつでもソルトを振り切れるのだが、今はそうしない。

「一度深呼吸をして。……そう、そのまま顔を見てろ。無理だったら目を閉じてればいい」

 促されるまますーはーと何度か胸を膨らませ、それからまっすぐナッツはソルトを見上げた。それに頷いてソルトも体勢を整え、指で探りながら先端をあてがい、腰を進めて押入り始める。

「っく……ぁ、うぅっ」

 ナッツが苦しそうに顔を歪ませる。やっぱり急ぎすぎたかな、と少し焦りを感じたソルトはナッツに口付け、舌を絡めつつ慎重に腰を進めていく。ふっと抵抗が軽くなったところで一度進めるのを止め、ナッツの頬を撫でた。

「もうちょっとだから…我慢な」

「う……ん、がんばるよ……」

 汗の浮いた顔で無理に笑うナッツを見て、ソルトは苦い顔をする。早く苦痛じゃなくなるようにしてやりたい。
 抱いた腰を引き寄せながら突き入れると、あっさりと奥へ滑り込んだ。ナッツの体が一瞬跳ねて、衝撃で少しの間呼吸が止まったような表情になる。

(いや…多分息が止まったんだろう)

 とうとうやった、とソルトは息を飲んだ。こんな風に番うことになるなんて想像もしていなかった。
 ナッツはやりばのない足先をふるふると震わせて、体の奥で息づいているモノの圧迫感を逃そうと深呼吸を繰り返す。

「っはは……ナッツ……入ったよ、全部」

「あ……ぁ、あんま……見ないで」

 懸命に自分を受け入れようとするナッツの姿に、ソルトはどうしようもなく愛しさを覚えて、ルイーダで出会った時以来久しぶりに「勇者様」でなく「ナッツ」と名前を呼んだ。またも顔を覆い隠すナッツ。見ないで、という要求に逆らってソルトは視線を下にやった。

「ナッツ……すっごいやらしいな……」

「や、やだって言ってるのにっ!」

 ナッツが真っ赤になって抗議する。くしゃりと頭を撫でながらなだめ、落ち着いたところでソルトが再び真剣な顔に戻る。

「……動いてもいいか」

「……うん」

 小さく頷くナッツを見てから、ソルトはその体にぐっと体重をかけ、ゆっくりと動き始めた。腰を引きずるずる先まで引き抜いて、それからまた奥まで慎重に進んで行く。突き入れるたび、押し出されるようにナッツの喉から吐息が抜けた。

「っ……はっ……」

「うぅっ、んっ、ん……」

(まだ……もっとイイのが見れるはず……)

 徐々に抵抗も薄れ、動きもスムーズになっていく。それでもまだ感じているという風には見えないナッツを見ながら、ソルトはそれとなく向きを変えてみたり角度をつけたりと試行錯誤していた。

「ひゃうっ!?」

 闇雲に深く突いた時、ナッツが上ずった声を上げながらのけぞった。まだ余韻を残すように息を吐いて、ナッツは戸惑った顔をソルトに向ける。

「そ、ると……いまの、なに……?」

「……」

 ソルトはしばらく呆けたような顔をしていたが、ナッツの反応の意味を理解すると返事もしないまま勢いを上げて攻め始めた。

「っ!うぅっ、ひっ、や、ぁぁ、まっ、てぇ」

「……ごめんナッツ、そんな余裕ない」

 触れる機会すらないような奥の奥までソルトが侵入ってくる度、電流が走るようにびりびりした刺激がナッツの全身を巡る。
 絶え間なく快感が与えられるのにわずかな恐怖を覚え、ナッツは逃れようと身をよじるが、重みをかけられてそれもかなわずただ喘ぐばかりだった。

「あぁぁ、っい……やだ、こわいっ……」

「ナッツ、そんなビビらなくてもいいって。死んだりしねえから」

「だって、……こ、こんなのっ……はじめて、だから」

「今日からは初めてじゃなくなるんだぞ……ほら」

 そう言いながら、ソルトは腕を押さえていた手を離し、すっかりそり立ったナッツのそれへ手を伸ばして上下し始める。

「あうぅぅ!っん、んぅぅ」

 ぬちぬちと粘ついた水音がナッツの羞恥と快感を一層煽る。止まらない嬌声を聞かれたくないと必死に両手で口をふさぐものの、突かれて体が大きく揺れるとその都度手がずれてしまい、結局最後には両手を力なく地面に投げ出して揺さぶられる形になった。

「はぁっ、ああっ、あ、ふぁああぁぁっ!」

 不意に2、3度びくりと身震いしたかと思うと、ナッツは高まりの頂点に達した。脈打つように精を吐き出すと、そのままぐったりと全身の力を抜いてぜぇはぁと荒く息を吐いた。

「……イッたんだな」

「はぁー……はぁー……」

「……まぁ、気持ちいいならよかった」

 痛いだろうか、苦しくないか、本当に気持ち良いだろうか、ずっとそんな風なことを考えていた分、ソルトは安堵する。
 手の中ですっかり力を失ったナッツのモノをゆるく擦りながら、ソルトはまたナッツに軽く口付ける。上から覆いかぶさるようにしてソルトが見下ろすのをナッツは不安げな、それでもどこか期待しているような顔をして見上げた。そしてそのまま、今達したばかりのナッツにかまわずソルトは再び勢いづいて動き始めた。

「っあああぁ!?やだ、やだあぁっ、うごいたら、ああぁっ!」

「ナッツ……もっと沢山、よがってるとこ見せてくれ……っ」

「うあぁっ、あっ、あぁぁ……よ、がるって、なにぃっ」

「そうやってはしたなく声上げて……そういうところが、もっと見たい」

 真正面から見つめながら本気でぶつかってくるソルトにナッツは何も返せず、開かれた足を震わせて全身で受け止めるしかできなくなっていた。かろうじて働いていた頭も次第にぼんやりして、ソルトの言葉と、ただ気持ちいいという感覚だけがぐるぐると回り続ける。

「はぁぅう、いっ、いぃっ……きもちっ、いぃよ……」

 息も絶え絶えに悶えながら、ナッツは投げ出していた手を伸ばしてソルトの腕をつかみ、そう訴える。その蠱惑的な姿にソルトも思わずムキになって腰を振った。魔物がどうの、寝ている仲間がどうのということも、もはや忘れかけている。

「クソッ、冗談だろ……!」

(ナッツは勇者様だってのに、なんでこんなにやらしいんだよ……ッ)

 互いに分別をなくし、盛りのついた獣のように激しく動いては鳴き交わす。

「うあぁぁぁ、あぁぁっ!またっ、い、いっちゃうから……!」

「っ……俺も、もう……!」

「うぁ、あああああぁぁっ!」

 お互いにそれ以上動けなくなり、しばらくの間小刻みに震える。そうしてやっと全ての情欲を注ぎ終えたのと、2度目の絶頂で気力も尽き果てたのとで、揃って折り重なるようにその場に倒れこんだ。

「……ナッツ……好きだ」

「はっ……はっ……ソルト……」

 はじめからそうと決まっていたかのように、自然に唇を触れ合わせ長いキスを味わう。次第に舌も絡め合い、ひとしきり全てが終わってもなお互いを貪るように求め合った。

「っぷぁ……ぼくも、すきだよ……」

「……嬉しいこと言ってくれるじゃんか」

 追加で額に軽くキスをして、ソルトはナッツを抱き起こす。汚れを落とし、動いた時にぶつけたりしてできた傷にホイミを唱える。脱がせた服をまた元どおり着せてやると、ナッツが言いづらそうな様子でソルトの袖をつまんだ。

「あの、ソルト……立てない……」

「えっ」

(しまった……)

 ソルトは思わずのめりこんでしまった自分の浅はかさにようやく思い至った。明日も1日歩き回って旅をしなくちゃならないのに、こんなことをしていて歩けなくなったなんて女性陣には口が裂けても言えない。かといって体調不良を装うには元気がありすぎる。
 真剣に困り果てたソルトを見て、ナッツが慌てて付け足した。

「っあの、違うんだよ?多分……歩けるけど……」

「なんだ、歩けるなら……」

「……その……なんか、腰じゃなくて、力が抜けて……」

 それだけ言うと、ナッツは胸を押さえるようにして、真っ赤になり俯いた。その仕草と発言に不意打ちを食らい、つられてソルトも顔を赤くする。

「…………あーもう、しょうがねえなっ」

 がしがしと頭を掻いた後、ソルトはナッツを抱え上げる。それほど軽くはないが、もう慣れたものだ。

「今夜だけだぞ。こんな状態で火の番は任せられないから、もう先に寝てろ」

「でも…………うん、ありがとう……」

 おとなしく運ばれるまま、ナッツは一足先に寝床に戻された。何かもう一言くらい声をかけたいと思ったものの、ソルトはさっさと焚火のもとへと戻ってしまう。

(……なんだろう、なんか……幸せだなぁ)

 すっかり忘れていた眠気が顔を出し、うとうととまぶたを閉じながら、ナッツは微笑んだ。
 ——後にこの一件をめぐって、勇者を慕う仲間間で一悶着起こるのは、また別のお話。





一覧に戻る