トルテとクッキーのおはなし - 1
はじめの話
『お初にお目にかかります、クラッキール王子。ローレシア第一王子、トゥルテオといいます』
『はじめまして。名前がながいから、クッキーってよんでください。あなたは…トゥルテオだから、トルテですね!』
初対面の時から、大事な一粒種だと危険から遠ざけて育てられたのが一目で分かるおっとりした顔立ちだった。将来のサマルトリア王になるであろう男がこんなのんきものでいいのだろうかと余計な心配をしたほどだ。もしやそれは政敵を欺く作り顔で本当は強かな奴なのかとも思ったが、挨拶を交わしただけで人の名前を瞬時に菓子の名前に変換され、”のんきもの”の第一印象が余計に強くなった。
好きなものは甘味と動物全般。家庭教師曰く帝王学には消極的で、学者よろしく毎日書庫にこもりっきりだという。武術はからっきしだが、魔法の心得はあると自慢げに言う幼い顔を思い出す。
『いずれいっぱいおぼえますから、こまったら言ってくださいね』
『べつに、いらない』
もう少し腕白な性格であれば遊び相手として適当だったのに、という勝手な落胆からとげとげした言葉を返してしまう。そんな失礼な態度にも少しも怒らず、初めて会う年の近い友達候補にはしゃぐ無邪気な姿に、なぜか無性に腹を立てた。
『魔法なんてなんになるんだよ』
『やくにたちますよ、けがした時とか』
『そんなのツバつけりゃなおる。それにホイミくらい、ムーンブルクのやつらはみんなつかえるぞ』
そう言われて目を伏せる王子の姿を見て、少し言い過ぎたかと思った。が、すぐに顔を上げてにこにこしながら言われた言葉を多分忘れることはない。
『でも、あなたは魔法つかえませんよね。だからぼくもやくにたつとおもいます』
今ならなかなか言うじゃないかと感心できたに違いないが、まだ子供だった自分は些細な劣等感をつつかれて逆上し、咄嗟に王子を張り倒してしまった。不意の殴打で吹っ飛んだ王子は呆然とこちらを見上げていたが、自分にされた仕打ちを理解した瞬間火がついたように泣き出した。