トルテとクッキーのおはなし - 2




ミルクの香り


何年かぶりに再会したその顔は、記憶にある顔立ちとほとんど変わらないまま成長していた。あれから妹ができたことで多少は年長者としての自覚が出たのか、以前に比べると引き締まって見える。が、自分から見ればそれほど前と差を感じない。それに第一声が「いやー、探しましたよ」ときた。相変わらずののんきものだ。

「道中一人で大変だったんじゃないですか?僕なんてもう逃げ回るので精一杯で参りましたよ」

「普通に戦ってきた。あまり大群で来られるとまずいけど、大したことはないな」

「へぇ…やっぱり強いですね。あやかりたいなぁ」

入眠前のホットミルクをちまちまと飲みながら、合流するまでの出来事を互いに話す。苦笑しながらマグカップを弄ぶその手はしなやかで傷一つないが、爪などは旅の疲れで妙に荒れていた。装備も背中側の傷みが激しいのを見る限り、逃げ回るので精一杯という言葉にどうやら誇張や謙遜はないらしい。

「武器は何を使ってる?これから二人旅になるから逃げ回るわけにもいかないし、軽くなら教えられるが」

「恥ずかしながら…出立の際に父から細剣を一振り譲り受けたものの、バブルスライムにやられてしまって。今はこっちを使っています」

荷物の脇に置いた棍棒を目で見やってから、傍らの鞘を手に取る。引き抜かれた細身の剣身は、毒でひどく腐蝕してとても武器として使えそうにない。毒を扱う魔物の多いこの周辺ならむしろ錆びない棍棒の方が都合がいいかもしれないが、かつて武術はからっきしだと自称したこの王子のことだから多分うまくは扱えないだろう。

「…ここまでひどいと、打ち直すより新しいものに替えて手放すしかなさそうだな」

「どうでしょう。解毒呪文がもう少しでものにできるんですけど、もしかしたら武器にも適用できるかも」

「それが成功しなければ、別なものを調達した方がいい。なるべく丈夫なものを買おう」

「そうですね、駄目だったら諦めます」

目を細めて剣先を撫でるその表情には、郷愁の色が見える。サマルトリア王からもらったものだというが、王家に代々伝わる家宝だったりしたら手放せと言ったのは失敗だったかもしれない。もしくは単に家族のことを思い出しているのか。
カップが空になったところで、ずっと言おうと思っていたことを思い出し、改めて向きなおる。向こうもなんとなく雰囲気でそれを察し、剣を収めると居住まいを正した。


「では王子よ、これから長い旅になるだろうが、今後とも是非ご助力を」

「やだな堅苦しくて、あの時の名前でいいですよ」

「…じゃあよろしく頼む、クッキー。お前も敬語はなしだぞ」


「わかりま…わかったよ。こちらこそよろしく、トルテ」



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