トルテとクッキーのおはなし - 20
出発の朝
街を出発する日の朝、プリンが新しい花束を買ってきた。道中ムーンブルク城を通るので、城の人々へ手向けにしたいという。いつもは寝坊助のクッキーも早起きして買い物に出たのか部屋にいない。
「クッキーどこだ?あいつ財布忘れてる」
「買い物じゃないわ、福引に行ってるの」
こんな日に福引とは、マイペースここに極まれりというほかない。……まぁ今日この街を発ったらその間用途のない福引券は完全にゴミになってしまうから、今朝しかチャンスはないだろう。
プリンと二人で朝食を摂っていると、袋を抱えてクッキーが戻ってきた。中身を見なくても薬草の匂いが漂ってくる。
「あーずるい二人とも、僕まだ食べてないよ」
「お前が食わずに出かけただけだろ、早くしないとなくなるぞ」
「大丈夫よクッキー、こんなこと言ってるけどちゃんととってくれてるから」
わいわいと談笑しながら朝食を終え、部屋に戻って装備を整える。ごちゃごちゃに詰まった袋の中の薬草を束にまとめなおしていると、見慣れない装飾の指輪が袋の底から転がり出た。
「クッキー、何だこれ」
「あっ!そうだ忘れてた、それも福引で当てたんだよ。『祈りの指輪』って知ってる?」
祈りの指輪。その名前なら聞いたことがある。指にはめて祈りを捧げると、内なる魔力を引き出してくれるとか。元々魔力を持たない自分みたいなのにはただのアクセサリーにしかならないが、目の前にちょうど役立てられる奴がいる。
「これが祈りの指輪か、それならはめといたらいいじゃないか。お前かプリンならいくらでも役に立つ」
「駄目だよ、おいそれと使えるような指輪じゃない。指輪本体の魔力を使用者に供給しているのかわからないけど、何回か使うと壊れちゃうんだ」
なるほど、だから貴重なのか。はめておく必要はないにしても、いずれ使うことはあるだろうとクッキーに預けることにする。忘れ物がないか確認を済ませて部屋を出ると、すでに支度を済ませたプリンが廊下に立っていた。階下に降りてチェックアウトを済ませると、またいつでも寄ってくださいと主人が笑った。
街を出て少し歩いたところで、クッキーがふと街を振り返りながら言う。
「僕、もしも王子じゃなかったらこの街に住みたいな。素敵なところだ」
「なんだか嬉しいわね、私もほめられたような気分で」
「そりゃあムーンペタも君のふるさとみたいな場所だもん、その点も含めて素敵だよ」
二人が笑いあう。微笑ましいながらも、少し面白くない。クッキーの首根っこをつかまえて、頭をくしゃくしゃに撫でた。
「お熱いことで、婚姻の祝辞でも考えといてやろうか」
「やめてよトルテ、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃうよ」
そう言いつつも、笑いながらされるがままのクッキーを見て今度はプリンがクッキーの腕をつかまえる。
「愛されてるのねクッキー、ちょっと妬けちゃう。……これはあなたの台詞だったかしら?」
クッキーの顎に指を這わせながら自分の方を見てそう口にするプリンに、肩をすくめて返事をする。二人に挟まれて抜け出そうともがくクッキーが可愛くて、プリンと一緒になってもみくちゃにしてやりながら城までの道を歩いた。
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