トルテとクッキーのおはなし - 19




荷造り


翌日の話し合いで、結局は砂漠越えが決まった。ムーンブルク地方の交通網が完全に復活するまでには年単位の時間がかかるだろうとプリンが述べたため、そんなに待つよりはちまちま歩いた方が早いという結論で3人とも腹をくくった。
その後は日差しと熱風を避けるための上着やら、スライム一匹分はありそうな水用の革袋やら、思いつく限りの必需品の買い付けと移動経路の相談に忙殺される日が数日ほど続いた。保存食を期間と種類別に分ける傍ら、クッキーがふと溜息を吐く。

「しばらくはお菓子抜きかぁ、干からびそうだなあ」

甘味を切らしたこののんきものが過酷な砂漠でどれだけ消耗するか考えたら、つい甘やかして菓子も買ってやろうかなんて、一瞬考えてしまった。

「自分を食えばいいじゃないか。それでも足りなきゃ、菓子はまだ二人もいるぞ」

「ちょっと、それ笑えないよ!」

もっとうけるかと思ったが、若干真剣な方に受け取られたのかむしろ怖がられた。砂漠や雪山で食糧が底を尽き、魔物の肉や、果ては同行者を襲い喰らってまで命を繋ごうとする旅人なんてさして珍しくもない話だ。例外的に自分たちロトの血族は精霊ルビスの祝福によって、生半可な要因では死ぬことはないといわれるが、過信はしたくない。

「悪い、さすがに冗談がきつかったな。ところでそれ何だ」

クッキーが手に持っている小袋を指す。丸い木の実が湿気避けの薬草と一緒に詰まっていた。

「これ?栄養価が高くて日持ちするから長旅に良いって勧められたから買ったんだけど、すっごく苦いよ。もう口の中が毒の沼地みたい」

「……つまみ食いしたのか」

「違うよ!人を選ぶ味だから試しにって店の人が生のと炒ったのを一粒ずつくれたんだ。普通は炒って苦味を飛ばしてから食べるんだってさ」

炒ると食べやすいが、その分栄養が飛んでしまうので味が気にならなければ生食の方がいいという。苦いものがとびきり苦手なクッキーの基準ではいまいち伝わらないが、多分大したことはないはず。…確かめよう。

「口の中が毒沼なんて大変そうだな。ちょっと味見していいか」

「食べる?今開け――」

袋の口にかけた手を引き止めて、まだ喋っているクッキーの口を塞いだ。床に落ちた袋の中身が擦れ合ってざらりと鳴る。口の中へ舌を滑り込ませると、丸い双子のかんらん石がさらに丸くなるのが面白い。ただただ驚きっぱなしのクッキーの口内には、まだ微かに木の実の苦味が残っていた。
ひとしきり味を確かめてから顔を離したら、涙目で口の端から垂れる涎を拭いながらクッキーが怒った。

「こ、こんな時になんだよ!味見するんじゃなかったの!?」

「味見しただろ、クッキーを」

「~~~ばか!トルテの馬鹿っ!」

咄嗟に飛んできた拳を手のひらで難なく受け止めた。わーわー喚くクッキーで遊んでいたら、戻ってきたプリンに告げ口され無事お叱りをもらう。これからしばらくはふざけあう余裕もない厳しい旅になることを心の奥で予想しつつ、神妙な顔で叱られるに終始した。



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