トルテとクッキーのおはなし - 13




好きの正解


身分がどうだろうと今まで通りの待遇を続ける約束を主人と交わしたが、やはり王女を救ってくれたせめてものお礼だとそれまでよりも数段良い部屋に場所を移してもらった。王女は療養のためにということで別に個室を用意されたが、やはり男女同室で何かしら間違いが起こることを警戒しているのは察しがつく。自分もクッキーも王女に対してその気はないが、他人からはそんなこと見たってわからない。
やたらと骨組みの軋む今までの寝台にも別れを告げ、良い羽毛の詰まった布団の感触を楽しんでいると、クッキーが唐突に枕を投げつけてきてまともに顔に当たった。

「あはは、会心の一撃だ!」

「ったく、お前相当浮かれてるな」

苦笑して枕を投げ返す。クッキーが枕を顔で受け止めて笑っている隙に近寄り、腕を掴み寝台に押し倒した。突然迫られたクッキーの顔から一瞬で笑いが消え、頬に赤みが差す。

「と、トルテ…」

「先制攻撃するってことは、反撃に出てもいいってことだろ」

「え、あ、それは…ひゃいぃ!?」

クッキーはもっと別のことを期待していたようで、脇腹を思い切りくすぐってやると驚いたあとにやめてよと言いながら笑いだす。プリンに悩みを打ち明けて多少は楽になったのか、最初こそ動揺していたがこのくらいのふざけあいに支障がなくなってこっちも気持ちが軽い。ふと、なんとなく気になったことを口に出してみた。

「なぁ、クッキー」

「んー?」

「もっと触って欲しいか?」

「へ?」

目を瞬かせ、それから一拍置いてクッキーが赤くなった。

「そ、それって」

「…いや、こういう時に好きな相手ならもっと色々したいとか考えるもんなのかと…気になって」

些細なことだが、今の自分にはそこそこ重要な質問だった。もうそばにいないなど考えられないくらい大事な存在ではあるものの、それはまだクッキーのことを相棒として信頼しているにすぎないし、クッキーも普段は自分を意識しているような素振りもあまり見せることはない。その人となりは十分に見てきた。今は自分にどんな思いで接しているのか、知っておきたい。赤くなっていたクッキーが、少し真面目な顔になった。

「俺は正直…お前を信頼はしてる…けど、好きかどうかは自分でもまだ分からない。まず恋愛って概念が遠いというか…」

「……そう…だね、僕らは自由恋愛なんて普通しない身分だもの」

王族、それも将来国を継ぐ立場として、こと恋愛やら結婚に関しては制約が厳しい。伴侶になる可能性の有無にかかわらず、全ての女性には平等に慈愛をもって接するようにと幼い頃から教えられてきた身には、特定の人間に心焦がれることは御法度という空気があった。
クッキーがそっと頬に触れた。暖かい感触に、心のどこかで気持ちが少し動く。

「僕も何が”好き”の正解なのかは分からないな…でも、こうやって君とふざけあうだけで幸せだし、なんならただ一緒にいてくれるだけで嬉しい」

「そういうもんか」

「僕がそう思うってだけだよ。それとその…いつも夜とか、ああいう風にしてほしいってわけじゃ…ないから…」

若干顔が赤いが、クッキーは目をそらさず真っ直ぐに見上げる。言われてみれば、最初の時は自分が不躾に行為の邪魔をしてしまったからその流れになったわけだし、2回目は鏡を探しに行く前の晩で、色々と思うところがあってそうなったのだろう。

「ん、わかってる。別にそこは気にしないし、お前がしたいなら最後までやってもいいけど」

「最後まで…?」

クッキーがきょとんとした顔をする。あれ、何かおかしいような…

「…もしかして知らないのか」

「何を知らないのかもわからないけど…多分…知らない」

本当に知らなそうだ。とりあえずクッキーの腰を抱えて足の間に体を挟む。ここまでされれば何を意味するのかクッキーも理解はしたものの、未だに顔に疑問符を浮かべている。あぁ、根本的に常識がずれているのか…。

「それは知ってる…でも、どういうこと?」

「要するに、男同士でもできるってこと」

「…………どうやって?」

開いた口が塞がらない。年齢が年齢だから幼いのは仕方ないとは思っていたが、この程度のことも知ら…いや知らないのも当たり前か。別に男同士でやる方法なんて知らなくたって一生困らない。教える義務もないが、せっかくここまで話した以上はきっちり教えておくことに決めた。この顔立ちでやたらとのんきなこいつがその手のトラブルに遭遇しないとも限らないし、自己防衛としてもむしろ知らないとまずい。
クッキーの顔の横に肘を立てて顔を近づけ、もう片方の手で尻に手を触れた。向こうも驚いてわずかに腰を引く。

「どうってここしか入れるとこないだろ。お前狙われやすそうだから、防犯も兼ねて教えておくぞ」

「え、それ入らないんじゃ」

「慣らさなきゃな。前もって指で練習したり油で滑りをよくすりゃ入る。お前最初の時これ以上無理だって言ってたけど、これ知らないなら具体的になんだと思ってたんだ」

「……キス…とか、いっぱい触ったりとか…」

言いながら真っ赤になるクッキーを見て、やはりまだ幼いと痛感する。

「…お前かわいいな」

「っか、かわいいってなんだよ!」

自然と口から出たかわいいという言葉に珍しくクッキーが不満を表明する。実際かわいいと思うんだが、こいつにとってはどうも言われたくないみたいだ。プリンに言われて怒らなかったのは年長者への遠慮なのか、女性だから反論しづらかったのか…ともかくクッキーはさっきまでの動揺はどこへやら、ぷりぷりと怒っていた。

「そう怒るなよ、悪かったから」

「怒るさ、僕だって男なのにかわいいなんて、んっ…ん」

まだ愛情があるか自覚もできていないというのに、気づけばなだめようとして自然と口付けていた。軽くつつくように触れてから薄く口を開いて唇を食むと、まだ不満げな表情ながらも求めに応じて同じように返してくる。眉間に寄せていた皺は自然と消え、顔を離すとクッキーはなんともいえない表情を浮かべて呟いた。

「そうやってごまかすのは無しだよ」

「ばれた」

「もー……あ、ごめん。話の途中だったよね」

「話の途中っていうか、別にもう言うこともねえけど……さっき教えたこと覚えたか?」

「………えーと」

クッキーは自分が教えたことを思い返し、そして今の体勢がどういう状態かを理解したようでそこでやっと固まった。

「クッキー」

「は、はひ」

「噛むなよ。とりあえず教えただけで、今この場でどうこうしようってわけじゃないからな」

「あ、そ、そうだよね。うん、わかってる、ありがとう、覚えておくよ」

押しのけられながら返事をされる。これ以上何もしないと言ってるのだが気が動転しているのか、それとも自分がそうしているほどにはクッキーに信頼されていないのか…九割方前者だろうけど。

もうお互い特に言うことが見つからなかったので、自分は自分の寝台に戻って寝る支度をする。今夜はやけに虫の声がうるさい。



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