トルテとクッキーのおはなし - 16




サマルトリアにて-2


妹姫との穏やかなひと時を終え城を後にする途中、豪奢な金縁の扉が目に入った。美しいがどこか物々しく、奥から並々ならぬ気配を感じる。

「この中って何があるんだ」

「うちの家宝だよ。かつて勇者ロトが身につけた盾があるとかなんとか…」

ロトの盾。その響きを聞くだけでえもいわれぬ緊張感が走った。しかしその部屋が地下や警備の厳しい宝物庫でなく、城の中央にただ扉のみで鎮座しているのが気になった。どうやらプリンも気になったようだ。

「そういえばこの扉、何があるか知らなかったわ。見張りの兵士もつけないで危なくないの?」

「ここが唯一の侵入経路だけど、特殊な術で施錠されてるみたい。きっと銀の鍵みたいに、特殊な魔力のある鍵じゃないと開かないよ」

「特殊な扉か」

おもむろに銀の鍵を鍵穴にはめ込んでみた。当然鍵は回らず、諦めて鍵をしまうと後ろからプリンに頭を杖で強く叩かれる。

「何やってるの!勝手に開けようとするなんて無礼よ」

「いてて…そもそも開くとは最初から思ってなかったし」

「こんなところで喧嘩はやめようよ…もし開いたら、盾はトルテが使えばいい。きっと扱えるよ」

城のど真ん中であることを思い出し、自分もプリンも静かになった。国の財宝を持ち出そうとする無礼を働いた人間に対して、開けば盾を持っていけばいいとはつくづくのんきだ。…それにしても、サマルトリアに来るたびにこいつに対して負い目が増えて行くのは気のせいだろうか。
財宝という言葉を頭の中で繰り返しながらクッキーを見て、ふとその腰の鞘が目に入った。

「そういえばその剣、錆びっぱなしだろ。王からもらったものなら今のうちに修復できるか聞いてみたらどうだ」

言われて初めてクッキーも剣のことを思い出したらしい。すぐさま王のもとに行こうとして、その足が止まった。

「……恥ずかしいな、もらってすぐにだめにしちゃったなんて言うの」

「敵にやられたとだけ言えばいいんじゃないか。何も早々に使い物にならなくなったことまで言う必要ない」

その言葉にクッキーは頷いて、改めて王のもとに向かった。相変わらず玉座にはおらず、城内の教会を見に行っているという。教会に向かうと、神父と何やら話していた王がこちらに気づいて笑顔を向けた。

「おぉ、もう発たれるか。それなら祝福の祈りを……」

「父上、お話ししたいことがあります」

クッキーが珍しく真面目なので、王は意外そうな表情をする。いくら使い物にならないからといって、神聖な教会で武器を出すわけにはいかない。一度退出し、客間で座って話をすることになった。クッキーが鞘から腐蝕した細剣を抜いてみせると、王がふむと呟きながら整えられた髭を弄った。

「これはまた相当ひどい、よもやこれをまた使おうということは…」

「その…はじめは処分しようと思っていたのです。ですが、この剣を手放してはいけない気がして。父上は何も言いませんでしたが、きっと貴重なものでしょう?」

王はしばらく腕を組んで唸った後、剣を手に取ると重い口を開いた。

「参ったな、お前の重荷になると思って言わないでおいたのだが……その剣は私の父から受け継いだものだ」

「お祖父様の……」

クッキーが目を瞠った。クッキーの祖父ということは、初代サマルトリア国王にあたる。であればその付加価値は相当なものになる。王は人前での仰々しい口調を崩して言葉を続けた。皺の少ない顔立ちも相俟って、不思議と若々しく感じる。おそらくこれが彼の素に違いない。

「父はサマルトリアが興るよりも前、ちょうど今の君たちぐらいの年頃に諸国漫遊の旅に出ていてな。その旅の最中に手に入れた武器を、その剣の強化に利用したと聞いている。おそらくそれを手に入れれば元通りに鍛えられるはずだが…どこで手に入れたかは聞かされていないのだ」

「そんな、何か手がかりとか」

「手がかりか…強いて言えば武器の特徴……その剣と同じような細身の刃に、翼を広げた隼の意匠が施された長剣ということくらいだな。希少品だが、同一の武器は複数本存在することも父の口から聞いた」

隼の剣――咄嗟に思いついた呼び方だったが、きっとこれ以上に相応しい言葉はない。それほどの特徴があれば、きっと実物は一目でそれとわかる。王は剣を鞘に収めクッキーに返すと、申し訳なさそうに苦笑した。

「あまり役に立たなくてすまないな」

「い、いえ。父上からその話が聞けただけで嬉しいです。……お祖父様が共に旅した剣なら、これほど心強いものはないから」


クッキーの瞳に強い光が瞬いている。国王はまだ若い息子に重荷を負わせたくなかったというが、むしろ武器の由来が明かされたことでクッキーはより自信を得たようだ。



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