勇者の望み 三





 ローレシアの勇者王は、かつての恋人に選択を迫った。
 ふたつの国家を併合し、統治権を明け渡して国を離れ、自分の手元で暮らすか。あるいはそれを拒み、この場で国もろとも我が手に落ち滅びるか。にわかには信じがたい要求を突きつけられ、サマルトリアの若王は眩暈を覚えた。
 あれほど冷静で機知に富み、何よりも心優しい彼が、まさか自分一人をものにするためにこんな行動に出るなんて。動揺を隠せないまま、しかしサマルトリア王はすぐさま答えて己の考えを述べた。

 ただの一個人でなく、多くの財や領土や兵、そして無辜の民を抱えそれらを守らねばならない立場の自分が、どうしてみすみすそれらを滅びの道に立たせて良いものだろうか。もし本当にそれしか道がないのなら、この身を捧げるくらい惜しくはない。けれど僕は言わねばならない、王子の行いは愚かなことだと。僕らは離れても互いに生涯愛を忘れない、それで十分だったはずだ。たとえこのようなやり方で僕を手に入れたとしても、僕の帰りを待つ父や妹、そして臣下たちがすんなりと受け入れてくれるはずがない、そのくらいは君にも分かるはずなのに――

 自分の言葉ならきっと多少なりとも彼の心を動かせると考えていたサマルトリア王は、必死に説得を試みた。ローレシア王は静かに目を閉じ、頷いて微笑む。

「変わらないな。お前ならそういうと、信じていたよ」

 微笑する姿に一瞬緊張を解いたサマルトリア王は、次の瞬間激しい衝撃に襲われ、目の前が真っ暗になる感覚を覚えた。彼に気絶させられたのだと悟ったのは、遠く意識のない闇の中でのことだった。

 その日から、サマルトリア王は虜囚の子羊となった。彼を捕らえたローレシア王は、まず目を覚ますまでの間に予め用意させたあるものを彼の首にはめる。
 一見して奢侈な首飾りと見紛うそれは、呪いにも近い強力な魔封じの力を込めて作られた、彼のための枷だった。迷宮抜けや飛翔の呪文を得意とするこの魔法の子羊を繫ぎ止めるにはこれが必要なのだと、王は誰よりもよく知っていた。そして王は、愛しい子羊を誰の目にも触れぬよう己の住まう居室へとつないだのだ。
 目を覚ました子羊に次に与えられたものは、王自身の猛り狂った欲。泣いて逃れる彼をかき抱いて組み敷き、王は何度もその身に情欲を叩き込んだ。一度は離れて久しかった恋人の身体を全力でぶつけられ、子羊は何度も絶頂を迎える。遠のいては呼び戻される意識の狭間で、彼は王の言葉を聞いた。

「お前がここに留まって、俺を受け入れその言葉に従う限り、民は守ると誓おう。だが逃げ去ろうというなら、俺はこの国もサマルトリアも、お前すらも……全てを壊すよ」

 痛切な面持ちで、王は愛し子を抱く。噛み付くような口付けが、子羊の心を屠った。

***

 執務の合間に、ローレシア王は自らの居室に足を踏み入れる。重苦しい音と共に扉が開かれると同時に、消え入りそうな泣き声が部屋の一角から響く。
 部屋の寝台の上で、魔封じの枷に首をつながれたサマルトリアの子羊が苦しげに横たわっている。その手は背後で縛られ、寝台から自力では降りられないよう短めの鎖が枷から伸びていた。

「さぁ、今日はいい子にしてたか?」

「う……ぅ……」

 哀れな子羊の後孔には逸物を模した楔が奥深くまで穿たれ、薬液の塗り込められた陽根は啜り泣くようにとろみのある雫を垂らしている。
 王がその身を転がして寝台をあらためると、清潔なシーツのそちこちに白濁した蜜が飛び散り、すでに乾いてこびりついているのがみとめられた。つながれ留め置かれている間に、何度も快楽の責めに折れて、自ら寝台に擦り付けたものであるようだった。

「またやったのか、悪い子だ」

「やァ、ァアンッ……!!」

 子羊は高く鳴き、必死に王に向かって己に打ち込まれた楔を示す。

「こんなに汚したんじゃ、仕置きを解いてはやれないな」

「ぃゃあっ……ぬい、て……くるし……」

「『気持ちよすぎて』だろ、たっぷり入れてやったんだから」

 王は子羊に穿った楔をつかんで、少しばかり奥から引き抜いた。さんざ待たされた刺激を与えられ、金の子羊はガクガクと腰を震わせる。

「ひあッ、あ」

 わななく子羊の姿を無感動な表情で眺めながら、王は楔を引き抜いていくが、先端が出かかるところで抜くのをやめ、小刻みな抽送を繰り返し始めた。解放されると信じた子羊は期待に反した新たな責めに仰け反り、はらはらと涙を流して赦しを乞う。

「ひィ……!や、やめて……アアアァッ!」

「やめてほしいか?その割には嬉しそうじゃないか」

 黄金の子羊が快楽の叫びを上げる。皆を守るため、と我が身を王に捧げた彼はまさしく燔祭の犠牲だった。王が楔を弄ぶ動きに合わせ、その華奢な身体が条件反射で揺れ動く。
 臀部の柔肉を掴んだ王の手で、割り開かれた後孔に再び楔が奥深く打ち込まれる。

「ひぃいいんっ!!」

 子羊の悲痛な声が部屋を満たす。王の瞳に昏い光が灯った。

「前みたいに、素直に『きもちいい』と鳴いてねだってはくれないんだな」

「いぁ……こ、んな、ぁ……」

「今でも俺のことは愛してくれてるんだろう?なら、どうしてそんなに拒む」

 王は楔を打ち込む手に力を込めながら、愛する子羊が自分を求めるのを待った。強引に快感を呼び起こされ、後孔を楔に責め苛まれながら、それでも彼は目の前の暴君の思う様痴態を示すことはすまいと必死に恥辱に耐える。
 だが高潔な心とは裏腹に、身体はすでに何度もその責めに音を上げていた。王が嘆息して楔を思い切り引き抜くと、戒めから解き放たれた後孔を今度は王自らの“剣”でもって刺し貫く。

「ああああァァッッ!!」

 哀れな子羊は再び泣き叫んだ。愛する者の手で行われる折檻を心底から拒むこともできず、さりとて多くのものを負った我が身を彼一人のものと受け容れることもできず、腕尽くで抗う術をも奪われた彼にできることは何もなかった。
 そのまま息つく暇もなく、子羊は幾度となく穿たれる。かつて何度も愛し合い受け入れてきたはずのそれが、今はただその身も心もひどく苛むのだった。





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