勇者の望み 四





 子羊は夢を見た。昔の夢だ。

 世界を背負った旅の中で、ローレシアとサマルトリアの王子たちは、密やかながら確かに愛を育んでいた。果たしてその気持ちは、負わされた大きな使命を一時でも忘れられる互いにとっての逃げ場に過ぎなかったのだろうか。そんな気持ちが時折頭をよぎることもないではなかったが、たとえそうだったとしても彼らはお互いを真実かけがえのない存在と思っていた。

 初めて体をつなげ、ひとつになったのはいつだったろう。今でもありありと思い出せるが、最早遠い昔のことだ。

 ――今の僕は、彼の燔祭の羊。勇者の卓に捧ぐ、美しく肥えた黄金の子羊。

 王者として、勇者の想い人としての矜持は次第に消えかけていた。我が身を捧ぐ限り己が民が守られるのだということも、今ではその境遇を納得させる言い訳としてはどうでも良いことのように思われる。

 ――だって、彼は今でも僕を愛している。悩み苦しみ、己のすべての誉れを捨ててでも手に入れたいと願ったほど、僕を愛し求めているんだ。

 いつか、旅の終わりが間近に迫った時「ハーゴンを討ったら、このまま二人で何処かへ逃げてしまおうか」という言葉を交わしたことがある。できないとわかっていながら言わずにはおれなかった、ほんの冗談。王子は優しく笑っていいねと言ってくれた。
 最後の別れを惜しむように、二人は体を重ねた。何度も互いの名を呼び、食むように口付けて、離すまいと抱きしめあった。先に気をやって寝床に倒れ込んだ僕に、王子は髪を撫でながらそっと囁いた。

 ――離れても、ずっと愛してる。俺たちはそれでいいんだ……でも、それじゃダメだと思う日が来るかもしれない。そうしたらその時は、どこか二人で行こう……どこに行くかはわからないけど。俺が迎えに行くよ――

 そうだ、あの時王子はそう言った。僕は気を紛らす睦言だと思って、ただ笑って「待ってるよ」と言ったんだ。あれは冗談ではなかったということなのだろうか。

 なら、僕のすべきことは――